駆動方式の比較 / Comparison of Drive Methods
本ドキュメントでは、インクジェットプリントヘッドにおける代表的な駆動方式である サーマル(熱方式) と ピエゾ方式(Piezoelectric) の違いを整理します。
また、ピエゾ方式内部でもアクチュエータ構造に応じた分類(d31 vs d33)、駆動電圧・波形特性などを補足し、各社方式の理解を支援します。
🧪 1. 駆動方式の原理比較
項目 |
サーマル(Thermal) |
ピエゾ(Piezoelectric) |
駆動原理 |
抵抗体の加熱によりインクを沸騰・気泡生成 |
ピエゾ素子の変形で圧力を加えインクを押し出す |
主な材料 |
ヒーター(TaN, HfB₂など) |
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛) |
温度ストレス |
高(200〜300℃) |
低(常温〜小発熱) |
インク制限 |
熱安定性が必要(染料水性中心) |
広範なインク対応(顔料/UV/溶剤等) |
特徴 |
低コスト・高速応答 |
高精度・高信頼性・広い材料適用性 |
採用例 |
Canon(BubbleJet)、HP(TIJ) |
EPSON、Ricoh、Fujifilm、Konica Minolta 等 |
🔍 2. ピエゾ素子構造の分類(d31 vs d33)
◽ d31モード(横方向変位)
- 構造:バルク積層型(例:旧世代ヘッド)
- 動作:電界を加えると素子が横方向に収縮し、キャビティを押し出す
- 特徴:
- 高耐久・シンプル構造
- 駆動電圧はやや高め(30〜40V)
- 応答速度は中程度
◽ d33モード(縦方向変位)
- 構造:薄膜PZT/MEMS構造(例:μTFP)
- 動作:電界により縦に伸縮し、インク室を直接圧縮
- 特徴:
- 高密度実装が可能(300〜600dpi)
- 応答性・エネルギー効率に優れる
- 微細MEMSプロセスが必要
⚡ 3. 駆動電圧と波形設計の工夫
項目 |
内容 |
電圧レベル |
サーマル:12〜24V / ピエゾ:20〜40V |
駆動構成 |
ピエゾでは複数電極間の電位差で動作を制御 |
波形制御 |
パルス幅・振幅・立ち上がり制御で吐出量調整 |
特殊設計(例) |
一部ヘッドでは、圧電素子の有効変位を得るために、共通電極にオフセット(負バイアス)を与える設計が採用されていることがある |
※ 圧電材料のヒステリシス特性により、抗電界を超える電界が必要な場合があり、そのための駆動波形設計が重要となる。
🏭 4. メーカー別採用方式の概要
メーカー |
駆動方式 |
備考(電極構成や制御方式) |
EPSON |
ピエゾ(d33) |
薄膜PZT + MEMS構造、独自の高応答制御方式採用(詳細非公開) |
Canon |
サーマル |
ヒーターによる気泡駆動(BubbleJet) |
HP |
サーマル |
TIJ(Thermal InkJet)、使い捨て設計中心 |
Ricoh |
ピエゾ(d33) |
MEMS型ピエゾヘッド、高耐久設計 |
Fujifilm |
ピエゾ(d31/d33) |
Dimatix含む各種構成。用途に応じたモジュール設計 |
📌 今後の拡張予定
- Mermaid.js による駆動方式構造図(d31 vs d33)
- 波形制御の代表例とインク応答性のマッピング
- ヒステリシスモデルと有効変位領域の可視化(例:PZT E-Vカーブ)
📚 参考資料
- 特許:JP2018-xxxxxx, US2020/xxxxxxxA1 等
- 技術論文:応用物理学会誌/SID技術報告/JETRO報告
- メーカー技術カタログ:EPSON, Fujifilm, Ricoh 他