4.3 MOSトランジスタの信頼性劣化:BTIとHCI
MOSトランジスタは、長時間のストレスや高温・高電圧動作により、
しだいに劣化し、特性が変化していきます。
本節では、特に代表的な劣化要因である
BTI(Bias Temperature Instability)と
HCI(Hot Carrier Injection) を中心に、
その物理メカニズム・影響・設計的考慮を解説します。
1. BTI(Bias Temperature Instability)
🔍 概要
- ゲートに正負のバイアスをかけたまま高温環境にさらすと、
酸化膜/界面にトラップ(捕獲中心)が発生
- これにより、Vth(しきい値電圧)が徐々に変動
🔹 NBTI / PBTI の違い
効果 |
主な影響 |
主対象 |
NBTI(負) |
Vth増加(遅延増大) |
PMOS(負Vgs動作時) |
PBTI(正) |
Vth変動(主に高kゲート) |
NMOS(HKMG使用時) |
🧠 教育的視点
- NBTIによるPMOS遅延劣化が、SRAM・リフレッシュタイミングなどで問題に
- 対策として、デューティ比制御・セルのばらけ配置・エージング補正回路など
2. HCI(Hot Carrier Injection)
🔍 概要
- 高Vds動作時、チャネル内のキャリアが高エネルギーを得て、
酸化膜に注入・トラップされる
- 主に NMOSの飽和領域動作で顕著
🔥 主な現象
- ゲート絶縁膜にトラップ電荷形成
- Vthの変化、Idの低下(gm低下)、遅延の増大
🧠 設計での考慮点
- 高Vdsかつスイッチング頻度が高いトランジスタはHCIに要注意
- レイアウトでは ドレイン端に保護構造(e.g. LDD、空乏拡張など)を導入
3. 特性変動とモデル化の概念
項目 |
BTI |
HCI |
主因 |
高温×バイアス |
高電界×高周波動作 |
主効果 |
Vth変動 |
gm・Id劣化、Vthシフト |
回復性 |
一部あり(リラックスで回復) |
基本的に不可逆 |
モデル化 |
$\Delta V_{\text{th}} \propto t^n$ (加速因子) |
使用率×Vds依存で劣化率予測可能 |
教育では、ストレス→測定→回復の実験シナリオが有効(擬似でも可)
4. 教材プロセスでの扱い(sky130 / 0.18µm)
- sky130 や 0.18µm のPDKには、経年劣化モデルが含まれていない場合が多い
- 教材では、以下のような模擬実験・定性的理解が有効:
教材手法 |
内容 |
Vth変動の仮想パラメータ付加 |
SPICEでΔVthを与えて劣化後挙動を観察 |
gm劣化の可視化 |
Id低下の波形変化を確認(論理遅延) |
高Vds・高温条件による応答変化の演習 |
温度・電圧スイープによる波形変化を体験的に理解 |
5. 今後への接続と位置づけ
- これらの信頼性問題は、「設計時には正常でも、長期使用で劣化が顕在化する」ことを教える
- 教材では、寿命設計・ディレーティング・セル選択の判断につながる概念として導入する
👉 次節では、これら物理特性・劣化を踏まえて
設計ルールとレイアウト寸法がどのように決まるのかを扱います。
👉 4.4 デザインルールと寸法規則の意味