4.2 MOSトランジスタの動作原理と特性
本節では、MOSトランジスタの基本的な電気特性について、
設計者が扱うために必要な物理現象と指標を整理します。
Vth(しきい値電圧)、Id-Vgカーブ、gm(トランスコンダクタンス)、
サブスレッショルド領域の動作など、sky130 や 0.18µm の回路設計を見据えた視点で理解を深めます。
🔌 しきい値電圧 Vth(Threshold Voltage)
▶ 定義と物理的意味
- ゲート電圧がチャネル内に反転層を形成し、電流が流れ始める境界
- 通常は $V_{\text{th}} \approx 0.4\text{〜}0.6\,\mathrm{V}$ 程度(プロセス依存)
▶ 設計上の影響
- Vth が高い:リーク電流低減、遅延増加
- Vth が低い:高速動作、スタンバイ電流増加
- 回路設計では Multi-Vthセル選択や バイアス制御と深く関わる
📈 Id-Vg特性とチャネル動作領域
領域 |
条件 |
特性 |
対応モデル |
カットオフ |
$V_{\text{gs}} < V_{\text{th}}$ |
OFF状態 |
リーク支配(サブスレ) |
リニア |
$V_{\text{ds}} \ll V_{\text{gs}} - V_{\text{th}}$ |
抵抗動作 |
$I_d \propto V_{\text{ds}}$ |
飽和 |
$V_{\text{ds}} \ge V_{\text{gs}} - V_{\text{th}}$ |
定電流動作 |
$I_d \propto (V_{\text{gs}} - V_{\text{th}})^2$ |
🧠 教育では、SPICE測定・波形観察を通じて、各領域の変化を体験的に学ぶことが可能
⚙ トランスコンダクタンス gm
▶ 定義:
$g_m = \frac{\partial I_d}{\partial V_{gs}}$
- gm は MOSFET の「電圧→電流変換効率」を示す
- gm が大きいほど、アナログ増幅性能やスイッチ速度が高くなる
▶ 設計との関係
- gm は W/L 増加・バイアス電流増加により向上
- gm を確保しつつ消費電力を抑えるのがアナログ設計の核心
🔍 サブスレッショルド領域とSS(Subthreshold Swing)
- $V_{\text{gs}} < V_{\text{th}}$ 領域でも、指数関数的に電流が流れる
- SS(サブスレッショルドスイング):電流が10倍になるために必要な電圧変化量
$\mathrm{SS} = \frac{dV_{gs}}{d(\log I_d)} \quad [\mathrm{mV/dec}]$
▶ 教育的ポイント
- SSが小さいほど、ON/OFFの切り替えが急峻 → 低電圧動作に有利
- sky130等では、典型的に SS ≈ 80〜100 mV/dec 程度
📘 MOS特性を設計で使う視点
特性 |
回路設計との関係 |
Vth |
セル選定、バイアス制御、低リーク設計 |
Id-Vg特性 |
スイッチング速度、レイアウト面積とのトレードオフ |
gm |
増幅器設計、スルーレート制御 |
SS |
サブスレ動作、スタンバイ電力評価 |
🧠 図解候補(別途追加)
- Id-Vgカーブと領域分け(リニア/飽和/サブスレ)
- gm と W/L、Vgs の関係を示す傾き図
- SS を視覚化した対数軸の特性図
次節への導入
本節では、MOSの電気特性を設計的に理解しました。
次節では、それらに対して長時間ストレスや温度が与えられた場合の信頼性劣化(BTI, HCI)を扱います。
👉 4.3 個別信頼性(BTI, HCIなど) に進みます。