3.4 微細化におけるばらつきと信頼性の限界
CMOS技術の微細化は、単なる寸法縮小にとどまらず、
デバイスばらつき・短チャネル効果・信頼性劣化といった新たな設計制約を引き起こしました。
本節では、これらの制約をShort Channel Effect(SCE)という視点で整理し、
その代表例である DIBL(Drain-Induced Barrier Lowering)、Vthばらつき、リーク電流、
さらには HCI(Hot Carrier Injection)によるトランジスタ劣化について解説します。
📌 SCE(Short Channel Effect)とは?
微細なMOSトランジスタでは、チャネル長が短くなることで、理想的な動作が成り立たなくなります。
このような現象群は総称して 短チャネル効果(Short Channel Effect, SCE) と呼ばれ、以下を含みます:
- DIBL:ドレイン電圧によりソース障壁が低下する現象
- Vthロールオフ:チャネル長が短いほどVthが低下する傾向
- リーク電流の増大:トランジスタOFF時にも電流が流れる
- サブスレッショルドスロープの悪化:急峻性の劣化
📉 DIBL(Drain-Induced Barrier Lowering)
▶ 現象概要
- ドレイン電圧がチャネルのポテンシャル障壁を押し下げ、Vthが低下
- 結果として:
- 意図せずMOSがON状態に近づく
- スタンバイ時のリーク電流が増大
▶ 設計への影響
- スイッチング制御の難化
- 論理回路の「完全なOFF」が保証しにくくなる
- チャネル長、接合深さ、ウェルバイアス設計が鍵
⚠️ Vthばらつき(しきい値電圧の統計分布)
▶ 原因
- ドーピング原子数が極端に少なくなり、ばらつきが顕著に
- ゲート酸化膜厚やSTIの歪みも影響
▶ 結果と影響
- 同一設計のMOSでもしきい値が大きくばらつく
- SRAMセルなどの安定動作が困難に
- Monte Carlo解析などによる「統計設計」が必須に
💧 リーク電流(サブスレッショルド・ゲートリーク)
▶ サブスレッショルドリーク
- MOSがOFF状態でも、指数関数的にIdが残留
- 特にVthが低くなるDIBLの影響を受けやすい
▶ ゲートリーク
- 薄膜酸化膜によるトンネル電流
- 絶縁破壊・高電流経路の温床になる場合も
▶ 対応
- High-k材料導入(第4章)
- マルチVth設計、電源Gating、ウェル制御など回路対策
⚡ HCI(Hot Carrier Injection)
▶ 原理とメカニズム
- 高いドレイン電界でキャリアが加速 → ゲート酸化膜へ注入
- トラップ形成により、Vthシフト・gm劣化・Id低下
▶ 設計と信頼性への影響
- 初期動作OKでも、数百時間後に劣化進行
- LDD構造で電界緩和、Vdd制限で対策
- 回路評価にはライフタイムモデルが必要(例:10年寿命)
🧠 SCEと非SCE劣化の位置づけ
現象 |
発生要因 |
SCE分類 |
設計対応例 |
DIBL |
ドレイン電界がソース障壁に影響 |
✅ SCE代表 |
チャネル長制御、ウェル設計 |
Vthばらつき |
ドーピング変動・寸法変動 |
✅ SCEの副次効果 |
統計設計、SRAM強化 |
リーク電流 |
サブスレ領域の劣化 |
✅ SCE由来 |
スタンバイGating、電圧制御 |
HCI |
高電界による注入 |
⚠ 非SCEだが関連強 |
LDD、Vdd制限、耐久評価 |
🧠 図解候補(別途追加)
- DIBLによる障壁低下図(ポテンシャル図)
- Vthばらつきのヒストグラム
- サブスレッショルドId-Vg特性図(対数スケール)
- HCIトラップ形成の断面構造模式図
🧭 本節のまとめと次節への接続
- 微細化によって、SCE(短チャネル効果)と信頼性劣化が設計制約の本質に
- プロセスが進化しても、“設計可能性”は常に物理現象に縛られる
- 次章では、sky130や0.18µmといった「教育用プロセス技術」を通じて、これらの限界にどう向き合うかを考察する
👉 次節 3.5 では、設計教育の視点から「使えるプロセス技術」とは何か?を探ります。