3.5 教育に適したプロセス技術とは何か
本節では、これまでの微細化・構造進化・設計限界を踏まえて、
教育目的で採用されるプロセス技術(例:sky130、0.18µm)がなぜ適しているのかを整理します。
🎓 なぜ最新プロセスではなく、旧世代プロセスを使うのか?
✅ 教育目的における要件
- トランジスタの構造・寸法ルールが明快に観察・理解できる
- PDK(Process Design Kit)による設計環境が自由に利用できる
- 寸法が大きく、レイアウトと回路特性の関係を直感的に掴める
- 実装試作・ファブアウトが比較的低コストで可能
🏗️ sky130 と 0.18µm の特長
項目 |
sky130 |
0.18µm |
提供 |
SkyWater(オープン) |
商用PDK(例:TSMC, X-Fab等) |
利用性 |
完全オープンソース(Google支援) |
学術利用に制限あり |
特長 |
130nmノード相当、PDK公開、OpenLane対応 |
寸法・動作が安定、教育用IP豊富 |
実装性 |
MPW(multi-project wafer)で低コスト試作可 |
ファブによるが比較的安価な場合あり |
📌 どちらも:設計・レイアウト・シミュレーション・実装を「学生が通しで体験」できる貴重なプラットフォーム
🔍 教材的に有効な視点
- 寸法と動作の関係が観察できる(例:W/L比とId)
- デザインルールが物理的直感と一致する
- 実習での波形・リーク・遅延の観測が「物理と設計の接点」を体験させる
- 最新プロセスのようなブラックボックス設計でなく、物理層まで踏み込める
⚠️ 限界と注意点
- 最新ノード(5nm, 3nmなど)の技術課題(FinFET、GAA、EUV等)は扱えない
- 実使用アプリケーション(高周波、低電圧動作など)とは特性が異なる
- 信頼性評価(BTI、HCIなど)は簡易な模擬に留まる場合が多い
🧭 本章のまとめと今後への展開
- 教育では、「物理現象と設計ルールが結びつくプロセス」が最適
- sky130や0.18µmは、微細化以前の構造的理解・信頼性課題の学習に適している
- 次章以降では、これらを前提にMOS特性の解析やレイアウト設計の実践へ進む
👉 第4章では、「MOSトランジスタの特性と設計基盤」と題し、
sky130等に含まれるPDKやデザインルールの理解へと接続していきます。