第5章:AI半導体の応用領域
5.1 クラウドAIとデータセンター向け半導体
クラウド環境では、大規模AIモデルの訓練・推論を支えるために、
高性能かつ高帯域なAI専用半導体が求められます。
🔍 主な用途
- 自然言語処理(LLM)
- 画像生成・動画解析
- 大規模検索・レコメンデーションシステム
⚙️ 技術的特徴
- GPU/TPUクラスタによる並列処理
- HBM(高帯域幅メモリ)による高速データアクセス
- 高消費電力設計(数百W)だが冷却/電源環境でカバー可能
🏢 代表企業
- NVIDIA:H100シリーズ、Grace Hopper統合アーキテクチャ
- Google:TPU v5e(LLM訓練クラスタ)
- AMD:MI300シリーズ
- Amazon AWS:Trainium(学習)、Inferentia(推論)
5.2 エッジAIとモバイルAI
スマートフォンやIoT端末など「末端デバイス」でのAI処理には、
リアルタイム性・省電力性・小型実装性が重視されます。
🔍 主な用途
- 顔認識/生体認証
- 音声アシスタント(Siri, Alexaなど)
- AR/VR、スマートカメラ、スマート工場制御
⚙️ 技術的特徴
- SoC内にNPUやDSPを統合し低電力処理を実現
- モデル圧縮/量子化/Pruning による軽量化
- ローカル処理によるプライバシー保護
📱 用途例
- スマホ:ポートレート撮影時の深度推定/画像分類
- スピーカー:ノイズキャンセル付き音声認識
- エッジゲートウェイ:センサデータの前処理とAIフィルタリング
🏢 代表企業
- Apple:Neural Engine(A17 Proなど)
- Qualcomm:Snapdragon Hexagon NPU
- MediaTek, Huawei, Samsung など多数
5.3 自動運転・ADAS(先進運転支援システム)
自動車分野では、AIによる認識・判断・制御が進化しており、
信頼性・応答速度・冗長性が求められる用途です。
🔍 主な用途
- 物体検出/経路予測/ドライバーモニタリング
- Sensor Fusion(カメラ/LiDAR/Radar統合)
- V2X連携(車両間通信)
⚙️ 技術的特徴
- ISO 26262対応の機能安全設計(Functional Safety)
- 熱設計・ノイズ耐性・低消費電力が重要
- エッジでのリアルタイムAI推論が必須
🚗 代表企業/チップ
- NVIDIA Drive Orin/Thor:高機能統合SoC
- Intel Mobileye EyeQ:量産実績多数
- Tesla FSD Chip:自社開発による最適化設計
5.4 医療・製造・研究開発への展開
AIは社会インフラとして各産業に深く組み込まれ、
AI半導体の適用範囲も加速度的に広がっています。
🏥 医療
- 医用画像診断支援(CT/MRI/病理画像)
- 放射線治療プラン作成
- 創薬シミュレーション/タンパク質構造予測
🏭 製造業
- 外観検査/欠陥検出
- 工場ロボットの自律制御
- 工程最適化/異常予知
🔬 研究・科学技術
- 分子動力学/材料シミュレーション
- 数値計算の高速化(AI for Science)
- 量子計算システムの補助計算
科学研究機関では、GPUクラスタとAIモデルを組み合わせたシミュレーション×推論融合も進展中。
5.5 今後の成長ドライバ
- 5G/6G普及によるリアルタイムAI活用の拡大
- スマートデバイスの多様化(家庭・農業・インフラ・宇宙)
- LLMのエッジ実装に向けた軽量AIチップの需要
- AI+ロボティクス統合(倉庫・建設・介護など)
✅ 本章のまとめ
- AI半導体は、クラウドからモバイル、車載、製造、医療、研究まで応用範囲を急拡大している。
- 用途ごとに求められる要件(性能・電力・信頼性)は異なり、アーキテクチャ設計も差別化されている。
- 今後の成長分野では、「AIをどこで・どう使うか?」が半導体設計に直結する時代が来ている。