第2章:AIの歴史とブームの背景
2.1 初期のAIとその限界
人工知能(AI)の研究は1950年代に端を発します。
当初は論理推論やルールベースのエキスパートシステムが主流で、特定の分野では実用化も試みられました。
- 1956年:ダートマス会議
「Artificial Intelligence」という用語が初めて提唱される。
- 1980年代:エキスパートシステムの台頭
医療・製造などへの応用が進むが、運用コストやスケーラビリティの課題が顕在化。
- その結果、AIへの過度な期待が失望に転じ、「AIの冬」と呼ばれる停滞期が二度訪れた。
初期AIはルール駆動型であり、柔軟性や学習能力に乏しかった。
2.2 深層学習の登場とGPUの台頭
2006年、Hintonらの研究により「深層学習(Deep Learning)」が再評価され始め、
2012年のImageNetコンペにてAlexNetが圧倒的な成績を収めたことで、AIは新たな転機を迎えました。
🔑 技術的ブレイクスルー
- 演算性能の壁を打破するため、並列演算に優れた GPU が活用され始める。
- アルゴリズム面では、ReLU, Dropout, BatchNorm などの工夫により学習効率が向上。
- 大量データ × 高性能計算 × 高度なアルゴリズム の三位一体が成果に直結。
GPUはもともとグラフィックス用だったが、深層学習に最適な汎用アクセラレータとして再定義された。
2.3 現在のブームと大規模言語モデル(LLM)
2020年代に入り、AIの主戦場は画像認識から自然言語処理へと拡大。
中でも、大規模言語モデル(LLM)はAIの認知能力を飛躍的に高め、ブームの中核となっています。
🌍 LLMの特徴と要件
- 代表例:GPT-4(OpenAI)、Claude(Anthropic)、Gemini(Google)
- パラメータ数は 数千億〜数兆規模 に到達。
- トレーニングには 莫大な演算量・ストレージ・電力 が必要。
- 推論においても レイテンシ・帯域・消費電力 がボトルネックとなる。
💡 ハードウェア依存の高まり
- モデルの性能向上には、専用アクセラレータ(GPU, TPU, ASICなど) が不可欠。
- LLMは、ソフトウェアとハードウェアの共進化の象徴である。
2.4 参入企業の多様化と市場拡大
AI市場の拡大に伴い、計算インフラの重要性が増し、
多くの企業が AI専用ハードウェアの開発競争 に参入しています。
企業 |
戦略・特徴 |
NVIDIA |
GPU主導のAI計算市場を確立。CUDAで開発エコシステムを囲い込み。 |
Google |
TPUを設計し、クラウドAI処理の効率化を追求。 |
Apple |
スマートフォン向けNeural Engineを自社SoCに統合。 |
AMD |
MIシリーズでデータセンターAI市場を狙う。 |
Intel |
Habana LabsやNervanaなどの買収を通じAI強化。 |
Cerebras, Groq, Tenstorrent |
LLM・推論特化の新興AIチップ企業。極端な性能追求で差別化。 |
AIブームは、ソフトウェア革新だけでなく「ハードウェア主導のイノベーション競争」としても展開されている。
✅ 本章のまとめ
- AIは1950年代から数度のブームと冬を繰り返し、深層学習の復活とGPUの台頭で飛躍を遂げた。
- 現在は、大規模言語モデル(LLM)とそれを支える演算インフラの革新がブームを加速させている。
- 多くの企業がAIハードウェア開発に参入し、技術・市場・競争の焦点が半導体へとシフトしている。